SAA / Sasakawa africa association
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ノーマン・アーネスト・ボーローグ博士の受賞スピーチ
議会名誉黄金勲章授賞式
2007年7月17日
アメリカ合衆国ワシントンD.C.

飢餓に苦しむ世界の人々に食糧を供給する私の活動を認めていただき、こうして議会名誉黄金勲章をいただけますことを大変光栄に思います。今世紀中に 100億に達するであろう、この地球に暮らす人々に食糧を供給することの難しさ、複雑さについて、お話する機会を与えてくださった連邦議会の議員の皆様に感謝いたします。

私が生まれた1914年当時、地球の人口は僅か16億人でした。今日、それは65億に昇り、さらに毎年 8000万人ずつ増えています。増加の一途をたどる人口に食糧を供給するという仕事は、ますます複雑になってきました。というのは今、農業は、食糧、飼料、繊維を生産することだけではなく、バイオ燃料の原料の供給源となることも求められているからです。したがって、食糧分野の第一線で働く私たちには現状に満足している余裕はありません。

私が食糧不足に見舞われている低所得の開発途上国における、農業分野の研究と生産活動に携わるようになって63年になります。多くの科学者、政治指導者、農家とともに、食糧生産システムの改善に取り組んできました。これまでの私の業績はどれも、飢餓と戦うこのようなグループに加わって達成できたものです。ここで一人ずつお名前を挙げることはできませんが、皆さんはお分かりでしょう。長年にわたる皆様の献身とご支援に感謝いたします。また、私の活動に理解を示し、献身的に私を支えてきてくれた家族、そして今は亡き妻マーガレットにも感謝します。

緑の革命は、歴史にその名を残す見事な成功を収めました。1960年当時はおそらく、世界の人口の60%が、1年のうちある期間は空腹を感じていたはずです。2000年までには、世界の飢餓人口の割合は全人口の14%にまで減少しました。それでも、これを実際の人数に置き換えると、丈夫で健康な身体に必要なカロリーとタンパク質が充分に摂取できていない成人男性、成人女性、児童は8億5千万人に上るのです。ですから、この緑の革命のさまざまな成功にもかかわらず、何億という悲惨なまでの貧困にあえぐ人々に食糧安全保障を確保するという闘いに、勝利したわけでは決してありません。

緑の革命
1960年代半ばのアジアにおける小麦と米の生産の飛躍的な進歩は、緑の革命として世に知られることになるのですが、第三世界における近代技術の発展に農業科学を活用するプロセスの始まりを象徴するものです。これは1950年代後半、メキシコで小麦革命として「静かに」幕が開きました。1960年代、70 年代は、インド、パキスタン、フィリピンの農業分野の進歩に世界の注目が集まりました。さらに1980年代から90年代になると、世界の人口の5分の1が集中する中国が、大成功を収めました。中国は今日、世界最大の食糧生産国であり、その農作物収穫量は年を追うごとにアメリカの収穫量に迫りつつあります。とはいえ、この中国と、世界の人口の3分の1を擁するインドの2カ国は、経済の軸足が農業から工業へ移行することから、今後は農産物の最大輸入国になるのはほぼ間違いありません。

技術的な進歩‐そのうちの多くが過去50年間に生じたのですが‐がなければ、この世界はどうなっていたか、ということに、近代的な農業技術を批判する人たちはいつも見て見ぬふりをしています。「環境」保護が最大の関心事になっている人々のために、ここで、科学的根拠に基づく技術の応用が土地の利用にもたらした、プラスの影響に目を向けてみましょう。穀類の収率が2000年でも1950年当時のままであるとすれば、この年の世界全体の収量を収穫するのに、当時作付けされていた6億6千万ヘクタール以外に、ほぼ12億ヘクタールの、当時と同じ質の土地が必要となります。どう考えても、これだけ広大な余剰地が利用できるとは願うべくもありませんし、1950年からの50年間で12億人から38億人にまで膨れ上がった、人口密度の高いアジアでは不可能なことは明白です。おまけに、もし環境的に脆弱な土地が農業生産に用いられていたとすれば、土壌浸食、森林や草地の消滅、生物多様性の縮減、野生生物種の絶滅に対する影響は甚大で悲惨なものとなっていたでしょう。

少なくとも当面は、植物特に穀類はこれまで同様、人間が直接的に消費する食糧としてのみならず、新興工業国における肉類に対する急速な需要増に応えるための家畜飼料として、増大の一途をたどる食糧需要を大いに満たしてくれるものと考えられます。2025年までには自動車燃料どころか、世界中の人々に食べさせるだけでも毎年余分に10億トンの穀類が必要となるでしょう。こうした追加収穫のほとんどは、収量改善により、すでに生産に充当されている土地からもたらさなければなりません。幸いなことに、このような作物管理における生産性の向上は、植物育種から、作物管理、耕作、水利、施肥、雑草および病害虫の防除、そして収穫まで、あらゆる段階で実現することが可能です。

アフリカの食糧生産におけるさまざまな課題
世界のどの地域にも増して、アフリカにおける食糧生産は危機的状況にあります。この20年間は、人口の増加率が高い上に改良された生産技術の適用がはかばかしくないことから、一人当たりの食糧生産量の減少、食糧不足の拡大、とりわけ地方の貧困層の栄養水準の悪化、甚だしい環境の悪化を招きました。2000 年以降、小規模な自作農の食糧生産が好転している兆しは見受けられますが、この回復は依然としておぼつかないものです。

サハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、極度の貧困、やせた土壌、不安定な降雨、人口増加による圧力、土地や牛の所有形態の変化、政治的混乱、社会的混迷、訓練を受けた農業専門家の不足、研究および技術移転のシステムが不十分なこと、これらすべてが相まって農業開発を困難にしています。しかし、現在直面している食糧危機の主な原因は、長年に渡って政治指導者たちが農業をないがしろにしてきたからであるということも認識しなければなりません。ほとんどの国では、国民の70〜85%に生活の糧をもたらしているのが農業ですが、農業と農村の開発は優先されてきませんでした。食糧の流通およびマーケティングのシステムや、農業分野の研究や教育に投下される資本は極めて微々たるものでした。加えて、多くの政府は、本来は農家を対象にした生産報奨金を充当して、政治的に気まぐれでな都市住民に安価な食糧を供給する政策を採ってきましたし、未だに採り続けています。

1986年、私はサハラ以南のアフリカ諸国における食用作物の技術移転プロジェクトに関わることになりました。このプロジェクトのスポンサーとなっていたのは日本財団とその理事長、故笹川良一氏で、元アメリカ大統領ジミー・カーター氏もこのプロジェクトの熱心な支援者でした。「ササカワ・グローバル2000」という名で知られている私たちの共同プログラムは、過去20年間サハラ以南の14のアフリカ諸国で運営されています。トウモロコシ、米、モロコシ、キビ、小麦、キャッサバ、豆科穀物といった基本的な作物のための普及展示圃場での栽培に数百万という小規模な農家を援助してきました。

農業分野における国および国際レベルの研究組織がもたらした推奨生産技術には、(1)最適な実用品種もしくは交雑種の利用、(2)好ましい株立ち本数のための適切な整地と播種、(3)適切な肥料と、必要な場合は作物保護剤の施用(4)適時な雑草の防除、(5)灌漑時の保水および/または水の有効利用があります。また、腐敗と食害による穀類の損失を減らし、市場の価格が有利になる時期を見据え、農家自らが農産物を貯蔵しておけるように、農場での保管の改善に向けて、プログラムに参加している農家と協力しています。ほぼ例外なく、農家が展示圃場で収穫した穀物は、伝統的な栽培による収穫量の2倍から3倍に上ります。農家の意気込みは大きく、政治的指導者たちはこのプログラムに大きな関心を寄せています。

アフリカでの課題は手ごわいものですが、ラテンアメリカやアジアでの成功が役に立つでしょう。より収量の多い種子、施肥、マーケティングのシステムを用いれば、何億というアフリカの小規模自作農は、国民の栄養的、経済的福利の改善において大きな役割を果たすことが可能です。克服しなければならない最大の障害はインフラ、とりわけ道路と交通機関の整備が充分でないことだけでなく、飲料水と電気の不足です。特に交通システムの向上が、農業生産を大いに促進し、部族間の反目を克服し、これまで教師や医療従事者が危険を冒してまで取り組みたがらなかった農村地域に学校や診療所を開設する助けとなるでしょう。

作物研究に関する課題
作物の生産性は、品種の生産力、そして投入と産出の効率を高めるために用いられている作物管理の双方に左右されます。生産性の向上は耕作から、水利、施肥、雑草および病害虫の防除、そして収穫まで、あらゆる段階で実現することができます。世界の農業研究者や農家は、今後25年間、世界の穀類収穫量を 50〜75%拡大することのできる技術の開発と応用という課題に直面します。なおかつそれは、経済的にも環境面からも持続可能な方法で実行しなければなりません。収穫のほとんどは、「既に用いられなくなって」はいるものの、充分に利用できる技術を応用して得ることになるでしょう。とはいえ研究分野でも、技術の飛躍的な進歩により、収量安定性を改善し、さらには遺伝的生産能力を最大限に引き上げることも可能となるでしょう。

私たちは新たな科学の領域を押し広げて行かなければならない一方、既に手に入れたものを守っていく必要があることも忘れてはなりません。農業は相変わらず、突然変異を起こす病原体や害虫との闘いに明け暮れています。分かりやすい例を紹介しましょう。東アフリカで発生した新種の黒サビ病は、世界のほとんどのパン用小麦実用品種に甚大な被害をもたらしかねないものです。皮肉なことに、農業科学における私のキャリアは60年前、黒サビ病との闘いからスタートしました。そして人生の晩年にある今、ふたたび旧敵にまみえることになったのです。

1950年から54年にかけて、15Bと呼ばれる伝染力の強い種類が北米の小麦に大打撃を与えて以来、もう50年以上、深刻な黒サビ病が流行することはありませんでした。過去のそうした危機を経て、植物育種における国際協力の新たな形が生まれ、世界各地で多収性、耐病性と適応性に優れた小麦の品種の開発活動が促されました。しかしその後、気の緩み、植物育種材料の国際交換における障壁がどんどん高くなってしまったこと、予算の縮小、スタッフの引退やトレーニング制度の中止が、協力体制の弱体化を招いてしまう結果となりました。それはUg99と呼ばれる極めて深刻な黒サビ病の新種に対する、世界の反応の鈍さに顕著に表れています。

この新種がはじめて報告されたのは、1990年代後半のウガンダとケニアでした。Ug99はアフリカ中央部にとどまらず、現在は北アフリカと中東にまで移入し始めています。南アジアからいずれ中国や北米、さらには世界中の小麦生産地まで達するのももう時間の問題です。この病害が蔓延して数億という小麦生産者がその生計に壊滅的な損害を被り、価格高騰と数十億という消費者の健康で快適な生活に影響を及ぼす世界的な小麦不足を生じることのないよう、小麦研究者たちはこの病害の防除に緊急体制を取り始めています。 2005年からは、アメリカ農務省(USDA)、主要州立大学、アメリカ国際開発庁(USAID)のすばらしい協力が得られるようになりました。

シアトルに本拠を置くあるアメリカの大手財団が広範囲な研究プログラムを検討しており、承認されれば、今日までの進歩を確固たるものとし、さらに加速させることでしょう。私たちはこの研究活動の一環として、いろいろな穀類がある中でなぜイネだけがサビ菌に免疫があるのかを解き明かし、そこからバイオテクノロジーを用いてこの遺伝的免疫性をイネから、小麦をはじめとする他の穀類に導入できることを期待しています。もしこの研究が成功すれば、遡れば聖書にも登場するサビ病の災いを、地球上からついに追放できるかもしれません。


バイオテクノロジーに何を期待するのか?
20世紀を通じて、広大な土地を、例えば野生生物の生息地や森林、アウトドアレクリエーションなど他の使用目的に振り替えることを可能にする一方で、穀実生産力、病虫害の抵抗性、収穫安定性、生産者の収益安定性に大いに貢献する、新しい作物品種と交雑種が従来の植物育種から生み出されてきましたが、21世紀のこれからも引き続き生み出されることでしょう。

私を含め農業研究者の大半は、将来の食糧、飼料、繊維、バイオ燃料の需要を満たす一助とするため、バイオテクノロジーのすばらしい恩恵に浴することに期待を抱いています。旱魃、猛暑、酷寒といった極端な気候条件に対する耐性を高めるため、バイオテクノロジーの新しい効果的なツールを用いての有望な研究も現在進められています。将来、世界中の人々が気候変動の影響を体験するにつれ、おそらくこうした研究の重要性は一段と高まるでしょう。現在利用している土地を深刻な環境悪化から保護しながら、そこで産出される食糧の収穫量を増やすためには、遺伝的生産能力の上限を引き上げる科学的努力も辛抱強く継続していく必要があります。

世界中で回収されている水の70%は農地の灌漑に用いられていますが、灌漑面積は耕地面積全体の17%に相当し、世界の食糧収穫高の40%を生み出しています。将来の食糧需要を満たす上で決定的要因となるのは、灌漑面積の拡大です。しかし、都市部の水需要と張り合っていくには、農業分野での利用効率を格段に高める必要があります。バイオテクノロジーを用いて、要水量の低い植物を作り、より高度な作物・水管理システムを採用することで、「水一滴当たりの穀物収量改善」を実現することができるでしょう。

開発途上国の政府は、バイオテクノロジー分野における進歩を利用できるように準備を整え、その恩恵を受けねばなりません。過度の危険から国民の健康な暮らしと環境を守るために、遺伝子組換え作物の試験と利用に際しての指針となるべき規制枠組みが必要です。これらを実行に移すには費用効果が高くなければなりませんが、厳しすぎて科学の進歩が妨げられるようなものであってはなりません。

自らの生命科学分野の発明に対して、民間企業は特許権を取得しようとします。ですから、農業関係の政策当局は所有権の過度な集中がないか、絶えず注意を払うと同時に、公平なアクセス権という問題、とりわけ貧しい農家の便宜についても関心を向けなければなりません。これらは国、地域そして世界レベルの政府機関が議論すべき法的な問題です。

バイオテクノロジーの研究では、民間企業がリーダーシップを取っていますが、政府も同様に、重要な公的研究プログラムに出資すべきだと私は考えます。このことは民間企業の専有研究を補完するもの、バランスをとるものとして重要であるだけでなく、民間、公共双方の研究機関にとって、新しい世代の科学者育てていくという目的のためにも必要なことなのです。

アメリカの農業は、環境を保護しながら、農地として使用する土地をそれほど拡大させないで食糧、飼料、繊維、さらに今日ではバイオ燃料を産出することを求められています。科学はアメリカに課せられたこの任務にいつでも対応することができますが、農務省や議会の関連諸委員会の賢明で適切な支援なくしては、成功を収めることはできません。農務省と州立大学で提供されている、従来の研究および教育プログラムは継続していかねばなりません。植物と動物がどのようにして繁殖、成長し、旱魃や酷寒、病気といったストレスに打ち勝つかを決定する細胞と分子の事象についてさらに知識を深めるための基礎研究にも、議会は一層の投資を行う必要があります。このような重大な革新のほとんどは、まず基礎的な理解を深めることから始まります。

基礎研究から最大限を引き出すには、公共の農業機関における意思決定の慣行や体質を変える必要があります。主導的な地位にある科学者が、科学的にメリットがあるのはどのプログラムなのかの判断、科学的観点から現実に即した優先順位の設定に関わらなければなりません。国立衛生研究所(NIH)の場合のように、科学者と利害関係者が研究順位の提言を行う際に知識や考えを出し合えるような、審議会を設けるべきです。優先すべきは、現在の農業関連法案にこのような変化を織り込むことです。


都会人を対象とした農業啓発
いくつかの先進国で顕著に表れている、農業科学と技術に対する現在の激しい反発は、私には理解しがたいことです。人類はなんとあっさりと土と農業を見捨ててしまったことでしょう!先進国では、農業の直接従事者は人口の4%(アメリカの場合は2%)にも満たないのです。低価格の食糧と都市住民の偏見を考え合わせれば、世界に供給されている食糧をくる年もくる年も繰り返し生み出すことの複雑さ、なおかつ世界全体で年間8000万人ずつ増えつづける新しい人口のためにさらに増産することの複雑さを、消費者が理解していないのは驚くにあたらないのではないでしょうか?このような「教育格差」への取り組みにおいては、中等教育や大学で農業、生物学、科学技術政策を必須科目にすることが、役に立つと考えています。

ある高校で導入されている興味深いプログラムは、私も個人的に関係している「世界食糧賞ユース・インスティテュート」で、アイオワ州デモイン市の慈善家、ファン・ルーアンが創設し、「世界食糧賞基金」がけん引役となっています。毎年100人を超える高校生が、教師や親とともに、アイオワ州ジョンストンのパイオニア・ハイブリッド・カンパニー本社のジョージ・ワシントン・カーバーの名を冠したホールに参集します。ほとんどがアイオワ州の高校生ですが、今では他の州や外国からの参加者も次第に増えています。そして、世界の食糧の質、量、入手可能性の向上に関する入念な調査に基づいた小論文を発表します。プレゼンテーションは「世界食糧賞」のこれまでの受賞者と専門家を前にして行われ、その後、活発な討議が繰り広げられます。毎年、選抜された数名の優秀な上級生は特別奨学金給費生として、開発途上国の農業研究機関に住み込んで働きながら、貧困と飢餓の問題や、こうした悲惨な状態を緩和するために科学や技術がどのような役割を果たすことができるかについて、直接体験を通じて学びます。大半が女性の、若い夏季研究生が成長し、能力を発揮していくさまを見るのは殊のほかうれしいものです。研究生にとってそれは文字通り人生を変えるほどの経験であり、それは大学での成績や職業選択にも反映されています。将来を担うアメリカの若い世代が、膨張を続ける世界に食糧を供給することの複雑さと課題についての理解を深めることができるよう、このようなプログラムがもっと必要です。


農業と環境
この50年間、技術の変革のスピードが増すにつれ、科学に対する懸念が高まっています。確かに、原子の分離と、核兵器による大量破壊の可能性が人々の不安を増し、科学者と一般人の間に大きなくさびを打ち込みました。1962年に発表されたレイチェル・カーソンの「沈黙の春」は、有毒物質はいたるところに存在すると記していますが、この著書も極めて微妙な問題の核心を衝いたものでした。もちろん、この認識はまったく根拠のないことではありませんでした。20 世紀中葉までに大気と水の質は、文字通り「我が家の裏庭」にまで廃水を流し込む破壊的な工場の生産システムによって、著しく損なわれてしまいました。

私たちはみな、先進国の環境運動に感謝しなければなりません。過去40年間の活動が、水と大気の質の改善、野生生物の保護、有毒物質の廃棄処理の取締り、土壌保全、生物学的多様性損失の緩和の立法化につながりました。しかし、途上国、特にアフリカ諸国では、こうした環境に対する積極的な動きは見受けられず、現状を改善させなければ環境の悪化が生態的安定性を脅かす危険性があります。

第三世界における「持続可能な農業」を構成している要素についての、農学者と環境保護論者の議論はたいてい暗礁に乗り上げます。この議論は、有力な環境保護圧力団体を敵に回したくない、国際的な援助団体の多くの人の考えを麻痺させているとまでは言わずとも、混乱させ、アジア、サハラ以南のアフリカ諸国、ラテンアメリカの小規模な自作農が依然必要としている科学に基づいた農業近代化プロジェクトの支援に背を向けさせています。このような膠着状態を打開しなければなりません。

私たちは100億の人々を、その90%は途上国で、そして恐らくは貧困の中で生を受ける人々を養っていくという、目の前にある途方もない仕事を見失うわけにはいきません。唯一、ダイナミックな農業発展を通じてのみ、貧困を軽減し、人々の健康を増進し、生産性を向上させ、そして政情不安を軽減することにつながる、何らかの希望が見出せるのです。


最後に
37年前、ノーベル平和賞を受賞したときのスピーチで私は、緑の革命は飢餓との闘いに一時的な勝利を収めており、もし完全に実施すれば、20世紀末まで人類を養うに足りる食糧を提供できるだろう、と述べました。しかしそれと同時に人類の驚くべき繁殖力に歯止めを掛けない限り、緑の革命の成功は束の間のもので終わってしまうとも警告しました。

食糧生産を年間約50億トンという今日の水準にまで拡大するのに、およそ1万年かかっています。2050年までには、恐らく現在のほぼ倍量が必要となっているでしょう。世界中の農家が、作物の収量や信頼性、栄養品質の増大が可能なバイオテクノロジーの飛躍的な進歩はもちろんのこと、高収量の作物生産方法を利用できなければ、これを実現することはできません。実のところ、第三世界の小規模農家がその自然資源を保護するために切実に必要としている投資は、高い農業収入があってこそ可能になるのです。ケニアの考古学者、リチャード・リーキーがよく言うように、「お腹がいっぱいでなければ自然や資源の保護論者にはなれない」のです。農業分野の科学技術に関する議論に常識を働かせなければなりません。しかもそれは早ければ早いほどいいのです。

アメリカは20世紀の農業で最もすばらしい成功を収めました。科学と技術、そして農家の創意を通じて、アメリカの農業は最高レベルの生産性を実現しました。加えて、特に初期のころは活発でしたが、食糧不足に悩む低所得国の農業システムを軌道に乗せるためにこれら国々を援助するというすばらしい伝統があります。民間の農業関連企業は、アメリカのみならず世界中が恩恵に浴するよう、生産性向上技術の開発に大規模な投資を行ってきました。アメリカの公的機関、例えば州立大学、農務省、国務省などは、とりわけアジア、ラテンアメリカにおいて、自給自足農業の転換で重要な役割を果たしてきました。これはアメリカ人のみならず、世界にとって有益なことです。空腹や困窮の上には世界平和を打ち立てられない、ということを私たちは忘れてはなりません。

2004 年に、私の90才の誕生日を記念して、「アメリカ農務省ボーローグ・フェロー・プログラム」を設立していただいたことについて、当局にお礼を言い忘れているとしたら、それは私の怠慢になるでしょう。この国際的なプログラムには、私の母校であるテキサスA&M大学、ミネソタ大学をはじめ多くの優れた州立大学が積極的に関与しています。ボーローグ・フェロー・プログラムは、いくつもの海外の国際的な農業研究所や民間の農業関連産業とも連携しています。開発途上国の比較的若い科学者たちに、アメリカの最新の農業研究所で実地体験を積ませ、専門技能のレベルアップを図る機会を提供することを目的としています。これまでのところ、農務省はアメリカ国際開発庁の助けを得て、毎年約150名のボーローグ・フェローの研究員をアメリカに招く資金を各方面から調達し、提供できています。フルブライト奨学金に倣い、恒久的な資金調達を拡大することで、農務省と提携大学は途上国の若い科学者や農業リーダーのために、さらに内容の充実した学習と自己啓発の機会を用意することができます。給費生自身のみならず、スポンサーとなっている機関や国にとって有益であるのはもちろん、私はアメリカにとってもメリットがあると思います。テキサスA&M大学とオハイオ州立大学は、全米公立大学協会(NASULGC)を通じて、議会にはかるための内容を拡充した提案書を取りまとめています。

かつて1960年代、70年代がそうであったように、よりダイナミックで豊富な、第三世界の農業分野の政府開発援助プログラムに、アメリカが本腰を入れて再度取り組んでくださるよう、議員諸氏と政府には、今日この場でお願いいたします。小規模自作農の農業を支援する海外援助予算、特に、例えば私が40年間仕事をしていた国際トウモロコシ・小麦改良センター(CIMMYT)や、その提携先である国際農業研究協議グループ(CGIAR)下の研究機関など、多国間研究開発機関に対する海外援助予算のとどまるところを知らない削減はわが国のためにはなりませんし、昔から培ってきたわが国のやり方でもありません。

私たちの子供や孫、ひ孫のために偉大なこの国が進むべき道筋について、皆さんが計画を立てる際にお願いしたいことがあります。第三世界について、もっと果敢に、かつ思いやりを持って考え、新しいマーシャルプランを策定していただきたいのです。今回救いの手を差し伸べるのは、戦争で疲弊した往時のヨーロッパではなく、いまだに飢餓と窮乏に苦しむ、そのほとんどは農村地域に住む、10億人近い貧困層を援助するためです。この課題に誠心誠意を込めて取り組めば、アメリカの技術力と財力は、人類のこのような悲劇と不公平に終止符を打つことができるのです。